紅葉や温泉を目当てに山へ向かう季節です。国家資格整備士・保険募集人で現役のガソリンスタンド店長として、山道で気をつけたいことを整理しました。ネットで山道の記事を読むと、だいたい怖い現象の名前が並んでいます。ただ、毎日車を見ている立場から言うと、話はもう少し地味なところにあります。相棒のノア(犬)・テト(猫)も一緒です。

山道って、登りがしんどいイメージやわ。

車にとってしんどいのは下りなんだ。登りはアクセルを踏むだけだけど、下りはずっと止め続けないといけない。そこで何を使うかで、車のくたびれ方が変わってくる。
下り坂でフットブレーキだけに頼らない。シフトを D から一段落とす(AT なら 2 や L、CVT なら S、電動車なら B)。それだけです。
山にはスタンドが少なく、日曜が休みだったり夕方に閉まる店も多い。ふもとで満タンにしてから登る。
そして帰ってきたら、落ち葉と枝キズを見ておく。ここが山帰りの車でいちばん多い相談です。

山道は、登りより下りが本番
登り坂は、アクセルを踏めば車が進みます。燃費は悪くなりますが、それだけです。問題は帰り道にあります。
下り坂では、車は放っておくと勝手に速度を上げていきます。その速度を、ずっと抑え続けなければいけない。このとき何で抑えるかが、山道の運転でいちばん大事なところです。
抑える方法は2つあります。ブレーキで止めるか、ギアで止めるか。
フェードという現象はあります。ただし私は見たことがありません
山道の話になると必ず出てくるのが、フェードとベーパーロックです。まず、どういうものかを説明します。
| 現象 | 何が起きているか | ペダルの感触 |
|---|---|---|
| フェード | 摩擦材が熱で傷み、こすっても止まる力が出なくなる | 踏み応えはあるのに効かない |
| ベーパーロック | 熱がブレーキの油に伝わって沸騰し、気泡ができる | スカスカで床まで踏める |
気泡は押すと縮むので、力が伝わりません。だからペダルが軽くなる。順番としてはフェードが先で、そのまま熱を入れ続けるとベーパーロックに進みます。
ここまでが教科書の話です。そのうえで、正直なところを書きます。
私はフェードやベーパーロックを起こした車を見たことがなく、相談を受けたこともありません。ブレーキが焼けた匂いをさせて入ってきた車も記憶にない。今の車のブレーキは性能が上がっていて、普通の観光道路を普通に下るくらいでは、そう簡単に音を上げないということだと思います。

ほな、心配せんでええってこと?

怖がる必要はないよ。ただ、別の話がある。滅多に壊れないからといって、いい使い方をしているとは限らないんだ。
それでも、下りでブレーキを踏み続ける車はいます
ここからが本題です。山道を走っていると、下り坂でずっとブレーキランプが点いている車を見かけます。カーブのたびではなく、坂のあいだじゅう赤いままの車です。数としては珍しくありません。
その運転でブレーキが壊れることは、まずない。それでも、いいことは何もありません。
ブレーキは、運動エネルギーを熱に変えて捨てる部品です。踏み続ければそのぶん摩擦材が削れます。山に行くたびに続けば、交換の時期は早まります。
熱を持つほど、ブレーキの効きは甘くなる。壊れないとしても、温まった状態と冷えた状態では性能が違います。飛び出しに出くわしたときに使える余力を、ずっと削りながら走っていることになります。
踏んでは離す運転は、車を細かく揺らします。山道で気持ち悪くなるのは、カーブのせいだけではありません。後ろの席ほどこたえます。
エンジンブレーキの使い方(AT・CVT・電動車)
やることは単純です。下りに入ったらシフトを一段落とす。これだけで、あとは車が速度を抑えてくれます。
| 車のタイプ | 入れるところ | ひとこと |
|---|---|---|
| AT(オートマ) | D → 2 → L(車種により 3・2・1) | 急な下りほど低い段へ。L は速度を落としてから |
| CVT | D → S(さらに L や B がある車も) | S は回転を高めに保つモード。パドルで段を落とせる車も多い |
| ハイブリッド・電気自動車 | D → B | モーターで減速して電気を回収する |
| マニュアル | 3速・2速へ | 回転が上がりすぎない段を選ぶ |
最近の車は、レバーに数字が並んでいないものも増えました。その場合は M(マニュアルモード)や ハンドルのパドルで段を落とします。呼び名が違うだけで、やっていることは同じです。
電動車の B レンジだけ、少し中身が違います。エンジンではなくモーターで減速し、その勢いを電気に戻してバッテリーに貯める仕組みです。減速しながら充電しているので、下りきったころに電池が増えていることもあります。
段を落として、それでも速度が上がっていくなら、まだ足りません。もう一段落とす。逆にエンジンの音がうるさすぎるなら一段戻す。フットブレーキはカーブの手前で使う程度で足りるのが、ちょうどいい状態です。
同じシフト操作は、燃費にも効きます。エンジンブレーキ中は燃料の供給が止まるので、下り坂は燃料を使わずに走れる区間になります。運転で燃費を良くする話は、別の記事にまとめました。

山にはスタンドが少ない。日曜が休みの店もあります
ここは業界にいる者として、いちばんお伝えしたいところです。
人口が少ない地域ではスタンドの数が減っています。しかも日曜が休みの店、夕方には閉めてしまう店も多い。24時間どこでも入れられる感覚のまま山に入ると、いざというときに開いている店が見つかりません。紅葉の時期は日が暮れるのも早く、下りてきたころには真っ暗、ということが起こります。
対策は簡単です。ふもとで満タンにしてから登る。山道は勾配とカーブで燃費が落ちますし、渋滞すればさらに落ちます。半分あるから大丈夫、ではなく、入口で満タンにしてしまうのがいちばん確実です。
燃料の残りがどこまで持つかという話は、高速道路の記事でも書いています。考え方は山でも同じです。
山から帰ってきた車に多いこと
山帰りの車で実際によく見るのは、ブレーキのトラブルではありません。もっと地味な2つです。
落ち葉が積もっている
屋根やボンネットに乗っているぶんには、払えば済みます。困るのはフロントガラスの下、ワイパーが収まっているところに溜まった葉です。ここには雨水を抜く穴があり、詰まると水がうまく流れません。濡れた落ち葉を放っておくと、色が残ることもあります。
帰ったその日に払っておく。難しいことではないぶん、忘れられがちです。
狭い道で、枝にボディをこすっている
これも山帰りに多い相談です。細い道ですれ違うとき、対向車を避けて左に寄せる。そのとき路肩から伸びた枝がボディを引っかきます。運転席からは見えないので、気づくのは家に着いてからです。
細い線傷なら磨いて目立たなくなることもありますが、深いものは板金の話になります。修理費用の相場と、保険を使うかどうかの判断は別の記事にまとめました。
山は寒暖差が大きい
標高が上がれば気温は下がります。ふもとと山頂で10度違うことも珍しくない。空気は冷えると縮むので、タイヤの空気圧は山の上で下がったように表示されます。異常ではなく、温度による変化です。
気にすべきは、出かける前の状態です。もともと少し足りない状態で山道に入ると、カーブでの踏ん張りが鈍くなります。空気圧を見るのは、山に登る前に済ませておくのが正解です。
あわせて、朝晩の山道では路面が湿っていることがあります。落ち葉が積もったカーブは滑りやすく、濡れていればなおさら。日陰のカーブでは、いつもより早めに速度を落としておくと安心です。動物が出てくることもあります。夜間は特に、路肩に光る目が見えたら速度を落としてください。
よくある質問
Q1:山道の下り坂は、どうやって走るのが正解ですか?
A:シフトを D から一段落として、エンジンブレーキで速度を抑えるのが基本です。AT なら 2 や L、CVT なら S、ハイブリッドや電気自動車なら B に入れます。目安はブレーキを踏まなくても速度が上がらない段。フットブレーキはカーブの手前で軽く使う程度で足ります。
Q2:下り坂でブレーキを踏み続けると、本当に効かなくなりますか?
A:フェードやベーパーロックという現象はあります。ただ、スタンドで長年車を見てきて、それを起こした車を見たことも相談されたこともありません。今の車のブレーキは性能が上がっていて、観光道路を普通に下るくらいでは簡単には音を上げないためだと思います。とはいえ、踏み続ければ部品は確実に減り、熱を持てば効きも甘くなります。壊れないから正しい、という話ではありません。
Q3:ハイブリッド車や電気自動車の「B」レンジは何ですか?
A:減速の力を強めるためのレンジです。エンジンではなくモーターが発電機として働いて減速し、その電気をバッテリーに戻します。長い下り坂で使うと、フットブレーキをほとんど踏まずに降りられて、そのうえ電池が回復します。山道こそ電動車が得意な場面です。
Q4:山に行く前に給油しておくべきですか?
A:ふもとで満タンにしておくことをおすすめします。山あいや農村部はスタンドの数そのものが少なく、日曜が休みだったり夕方に閉まる店も多いからです。加えて山道は勾配とカーブで燃費が落ち、渋滞すればさらに落ちます。「半分あるから大丈夫」で入ると、下りてきたときに開いている店がない、ということが起こります。
Q5:山から帰ってきたら、何を見ておけばいいですか?
A:落ち葉と、ボディの線傷です。特にフロントガラスの下のワイパーが収まる部分に葉が溜まりやすく、そこには排水の穴があるので詰まると水はけが悪くなります。あわせて、狭い道で枝に当たった傷がないか、左側面を明るいところで見ておくと安心です。
まとめ:怖い名前より、シフトを一段
山道の記事には、たいてい恐ろしい現象の名前が並びます。知識として知っておく価値はありますが、こわがるための知識ではありません。

覚えて帰ってほしいのは2つだけ。下りはシフトを一段落とす。山に入る前に満タンにする。これで山道はぐっと楽になるよ。
- 出発前にタイヤの空気圧を見た
- ふもとで満タンにしてから登った
- 行き先のスタンドの営業日・営業時間を調べた
- 下りではシフトを D から一段落とした
- ブレーキを踏まなくても速度が上がらない段を選んだ
- 日陰の濡れたカーブは早めに減速した
- 帰ったらワイパーの下に溜まった落ち葉を払った
- 左側面に枝の傷がないか明るいところで見た
下りに入ったら、シフトを一段。指先の動きひとつで、ブレーキも同乗者も楽になります。今年の紅葉は、そこだけ意識して出かけてみてください。






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